コラム
西尾孝之(Takayuki Nishio)
データ分析において、「SQLを書くこと」は長らく分析者の必須スキルとされてきました。しかし、生成AIと自然言語処理技術の進展によって、状況は一変しつつあります。特にOracleが提供する「Select AI」は、自然言語でのクエリ操作を可能にし、ノーコードでのデータ分析を現実のものとしました。本記事では、Select AIの技術的な概要、ノーコード分析における役割、そしてエンジニアに求められる新たな立ち位置について深掘りしていきます。
Oracle Select AI徹底解剖 全3章
⇒【第1章】 Select AIで変わるデータ活用の未来
⇒【第3章】 OpenAI×Oracle Select AI連携:自然言語からデータベースを自在に操る
Oracle Select AIは、Oracle Databaseに組み込まれた自然言語インターフェースです。ユーザーが自然言語で質問を投げかけると、Select AIはそれを内部でSQLに変換し、必要な情報を抽出します。
仕組みの構成要素:
・Oracle Databaseのスキーマ情報の活用
テーブル構造やデータ型、リレーションシップを元に、SQLを正確に生成。
・外部の大規模言語モデル(LLM)との連携
Oracle Cloud上でOpenAIなどのLLM APIと接続。自然言語→SQL変換を実現。
・権限とセキュリティの統合
Oracleのロールベースセキュリティモデルに従って動作。不要なデータアクセスは自動で排除。
この設計により、業務ユーザーが「営業チームの今月の売上を見せて」と入力するだけで、必要なSQLが自動生成され、リアルタイムでデータを取得することが可能です。
従来のノーコードBIツールは、「事前に定義されたデータセット」しか操作できず、柔軟な分析には限界がありました。Select AIはその制約を超え、動的な自然言語クエリを可能にします。たとえば、「前年同月比で売上が10%以上伸びた製品を抽出して」といった曖昧な要求にも対応可能です。
Oracle APEXとSelect AIを組み合わせれば、ノーコードでのダッシュボード構築がさらに直感的になります。ユーザーはSQLの知識ゼロでも、データに基づく意思決定が可能になります。データ検索アプリケーションも生成されます。
これまでエンジニアに依存していた「データの抽出・整形」業務を現場にシフトすることで、分析サイクルの高速化とエンジニアの負担軽減が同時に実現します。
Select AIの普及は、エンジニアの役割が「SQLを書く人」から、「ノーコード環境を設計・最適化する人」へと変化することを意味します。
■ スキーマ設計とメタデータ整備の重要性
自然言語から正確なSQLを生成するには、スキーマ名、カラム名、制約などの構造的な明確さが不可欠です。命名規則の統一やリレーションの明示が、Select AIの精度を大きく左右します。
■ プロンプト最適化の知識
自然言語から生成されるSQLは、プロンプトの品質に依存します。エンジニアがプロンプトデザインのベストプラクティスを理解し、業務に合わせた辞書やルールを整備することが求められます。
■ 安全性と可観測性の担保
ユーザーが自然言語でクエリを飛ばす環境では、「意図しない全件抽出」「長時間クエリ」などが発生しやすくなります。これを防ぐために、クエリガバナンスや実行ログの監視が重要になります。
課題 :曖昧な自然言語の解釈
技術的対策 :ビジネス用語辞書の導入、FAQデータによる補強
課題 :高負荷
技術的対策 :クエリのリスククエリタイムアウト、制限付きビューの設計
課題 :多言語対応の未成熟
技術的対応 :英語ベースでの運用を基本とし、将来的な多言語対応に備える
Select AIは、「誰でもデータを扱える世界」を目指す強力なツールですが、それは同時に設計の質が成果を決める時代の到来を意味します。
エンジニアは、ただコードを書くのではなく、
● 構造化データの設計者としての役割
● AIとの対話を最適化するプロンプトエンジニア
● 分析プラットフォームのアーキテクト
として、より高度で創造的な領域にシフトする必要があります。
Oracle Select AIは、単なる自動化ツールではありません。これは、エンジニアがデータ分析の可能性を「より多くの人に届けるための仕組み」として機能します。ノーコード時代の扉はすでに開かれました。これからの技術者には、「その中で何を設計するか」が問われています。
西尾孝之(Takayuki Nishio)
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