コラム

OCI(Oracle Cloud Infrastructure)化における 「Lift & Shift」アプローチのメリットを解説

西尾孝之(Takayuki Nishio)


いきなり全部は難しい ― だからこそ「Lift & Shift」から
クラウド移行というと、「すべてを一気に変えなければならない」といった印象を持たれがちです。しかし実際は、既存資産を活かしながら、最小限の変更でクラウドへ移行する方法があります。
それが 「Lift」 です。
Liftでは、現在オンプレミスで稼働しているサーバーやアプリケーションを、構成を大きく変更せずにそのままOCI上に移行します。その後、段階的にクラウドネイティブサービスへのShiftを検討します。
このアプローチにより、以下のようなメリットが得られます。
・サーバー更新や保守切れ対策を、迅速かつ低リスクで実現
・クラウド上でのパフォーマンスやコスト感を実環境で把握
・将来的なクラウドネイティブ化に向けた布石
今回は、「OCI(Oracle Cloud Infrastructure)」を活用した段階的なクラウド移行の解説です。

DCRでは、「OCI化」についてトータルでご支援しております。
⇒「桑名金属工業様」事例・DBだけOCIへLift
⇒「自社基幹業務」事例・OCIへLift
⇒OCI化「Lift」 フェーズ成功パターンフロー ~実践 6STEP~

4視点で考える合理的なOCI化
- 人的リソース・コスト・インフラ資産・時間的制約 -

クラウド移行の必要性が叫ばれる中、「何から手をつけるべきか」「本当に自社にとってメリットがあるのか」といった戸惑いを感じるシステム担当者の方も少なくありません。特に、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)への移行を検討する際には、単なる技術論にとどまらず、現実的なリソースや制約を踏まえた総合的な判断が求められます。
本コラムでは、クラウド移行を進めるうえで欠かせない「人的リソース・コスト・インフラ資産・時間的制約」の4つの視点に着目し、OCI化の合理性について多角的に解説します。業務の実態に即した判断軸を整理することで、無理なく・無駄なく・将来につながるクラウド戦略を描くヒントとなれば幸いです。

(1)人的リソースの観点:移行負荷とスキル要件の最小化

手順のポイント
・既存構成のまま移行するため、大規模な再設計や開発スキルが不要
・OCIが提供するDatabase Migration Service(DMS)や Oracle Cloud Migration (CMS)を活用
・AWSのEC2や、VMWareの仮想マシンイメージを簡単にOracle Cloudへ移行

メリット
現行チームでの対応が可能:新たなクラウドスキルを即時に習得する必要がない
外部委託の抑制:設計・開発に関する外注費を最小限に
人材確保リスクの低減:クラウドネイティブ開発者が不足していても移行できる

(2)コストの観点:初期費用・運用費用の最適化

手順のポイント
・OCIの柔軟な価格モデル(Annual Flex, BYOL, Flex Shape)を活用
・ライセンス持ち込み(BYOL)によってOracle DBの既存契約を継続可能
・オンプレ環境と併用するハイブリッド構成により、段階的にコストを平準化

メリット
ハードウェア更新費用不要:インフラ更改サイクルの費用を削減
サブスクリプション型で初期投資を抑制
稼働時間やリソース使用量に応じた柔軟な課金モデルにより、ピークタイム以外のコスト削減が可能
冗長構成でも共有ストレージなどが不要になるケースがあり、設計コストを削減

(3)インフラ資産の観点:既存資産の有効活用

手順のポイント
・OCIのCompute(VM.Standard)やBlock Volumeにより、オンプレ仮想環境をほぼそのまま再現可能
・VPN/OCI FastConnect により、既存ネットワークとのハイブリッド運用が可能

メリット
システム構成やアプリ資産の流用が可能:再設計不要
Oracle RACやData GuardもOCIで対応可能:本番環境の冗長性やDR対策も踏襲可能

(4)時間的制約の観点:短期間での移行と影響最小化

手順のポイント
・既存サーバをイメージ化しOCIに展開 → DNS切替で即時切替可能
夜間や休日にスイッチオーバーを行うことで、業務停止時間を最小限に
・フェーズを分けて段階的に移行する「ローリング方式」も採用可能

メリット
最短数日〜1週間単位での移行が可能(検証含めても1ヶ月程度)
サービス停止時間を抑制:ゼロダウンタイム移行も視野に
障害発生時にもオンプレに戻す“ロールバック計画”を立てやすい

(5)補足:OCI移行におけるLift&Shiftを採用すべきケース

適しているケース
〇 インフラ更改を目前に控えている
〇 現在のシステムが安定稼働している
〇 クラウド対応の予算や人員が限られている

適していないケース
✕ モノリシックアプリの全面再構築を検討している
✕ クラウドネイティブな構成を前提としている
✕ 機能ごとのマイクロサービス化を計画している

(6)Lift&Shift方式によるOCI化:まとめ

Lift&Shift方式によるOCI化は、「既存の強みを活かしながら、段階的にクラウドの恩恵を取り込む」ための現実的かつ効果的なアプローチです。
・人的リソース → 新規教育・採用不要
・コスト    → 初期投資と運用費の最適化
・インフラ資産 → 最大限の活用
・時間     → スピーディな移行と影響最小化

DCRでは、「OCI化」についてトータルでご支援しております。
⇒「桑名金属工業様」事例・DBだけOCIへLift
⇒「自社基幹業務」事例・OCIへLift
⇒OCI化「Lift」 フェーズ成功パターンフロー ~実践 6STEP~

【事例解説】アプリはそのまま、DBだけOCIへLift
- ハイブリッド構成で実現するコスト削減と可用性向上 -

(1)なぜ「DBのみのOCI移行」か?

多くの企業では、既存アプリケーション(AP)は安定稼働しており、全面的なクラウド移行には以下のような課題があります。
・システム改修にコストと工数がかかる
・既存の社内ネットワークや連携先がオンプレに依存している
・移行によるサービス停止が許容されない
こうした中で「DBのみをOracle Cloud Infrastructure(OCI)にLift&Shift」する構成は、段階的・低リスクで以下の効果を得られる合理的な戦略です。

(2)ハイブリッド構成概要と特徴

以下は、オンプレミスのアプリケーションサーバ(Java, .NET等)とOCI上のOracle Databaseを接続した構成例です。
【アプリ】
 ・オンプレミスに残す(修正不要)
【DB】
 ・OCI Base Database Service にLift&Shift
【接続】
 ・Site-to-Site VPNまたはFastConnectでセキュアに常時接続
【セキュリティ】
 ・Security ListとNSGで接続先を厳密制御
【運用】
 ・OCIの自動バックアップ、モニタリング機能を活用

(3)主なメリット

高可用性と災害対策の強化
・OCI上のDBはマルチAD構成や自動フェイルオーバーに対応
・自動バックアップ機能により、人的ミス・障害時の迅速なリカバリが可能
・従来オンプレで個別に設計していたDR対応がクラウド標準で実装可能
※BCP対策をOCIの機能で標準装備に

スケーラビリティの向上(ピーク時対応)
・OCIではCPU・ストレージ性能の柔軟なスケーリングが可能
・月末・四半期末など一時的なピーク処理に合わせて必要な性能を一時的に拡張可能
※オンプレのような性能不足による業務停滞リスクを回避

コスト最適化
【ハード調達】
 ・オンプレDB:初期費用+保守契約が必要
 ・OCI DB  :不要(従量・月額課金)
【運用負担】
 ・オンプレDB:バックアップ・監視を自社対応
 ・OCI DB  :自動で実施される機能を活用
【ライセンス】
 ・オンプレDB:ライセンス別途購入
 ・OCI DB  :ライセンス持ち込み(継続含む)とライセンス込みを柔軟に選べる
※初期投資なしで、年間30〜50%のコスト削減も可能

段階的なクラウド移行に最適:「APはそのまま、DBだけ先に移行」という方式により、
・アプリ改修最小限
・利用者影響ゼロ
・クラウド移行の実績
・ノウハウを安全に蓄積できる
※“小さく始めて大きく育てる”理想的なアプローチ方法

(4)留意点と対応策

応答遅延の懸念
・VPN+BGPチューニング、FastConnect検討
SQL接続確認(接続先変更に伴う動作検証):
・事前にアプリ側からのクエリ一覧を抽出しOCI接続テスト
データ移行
・Data PumpやGoldenGate等で段階移行

(5)Lift&Shiftは“次への一歩”

オンプレミスシステムを全面刷新するのではなく、コアとなるDBのみをOCIへ段階的に移行することで、
次が可能になります。
・コストの圧縮
・運用負荷の軽減
・災害対応力の強化

クラウド化の成功は、「すべてを一度に変える」ことではなく、「必要な部分から着実に変えていく」ことにあります。

西尾孝之(Takayuki Nishio)

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