千葉工業大学 社会システム科学部 プロジェクトマネジメント学科の矢吹太朗准教授は、自身の研究室で行う3年次前期の学生演習にシステム設計専用ツール「Verasym System Designer」を採用。学生たちにとって初めてとなるプロジェクトチームでのソフトウェア開発に、プロ向けのツールを使うことで、より本質に近い経験を積むことができたと評価している。
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導入前の課題
- ・開発の現場で使うのとは異なるツールでの演習に課題を感じていた。
- ・チームで開発する”本質”をつかんでほしいと考えていた。
- ・ツールの使い方について、教員側のサポート負担を増やしたくなかった。
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導入後の効果
- ・プロのツールを使用することで、本来学生時代には知ることのできない実業務の難しさを体験できた。
- ・ツールの機能を通して、現場では何が必要とされるのかを考える良い機会となった。
- ・手厚いサポートなどにより、教員も大きな負担なく活用できた。
Web上の共同作業などからマネジメントを研究
「世界文化に技術で貢献する」という建学の精神を掲げ、1942年に創立された千葉工業大学。現在では、津田沼と新習志野の2つのキャンパスを中心に、工学部や工学研究科など工学や科学を軸とした教育・研究を実践している。
学部の一つ、社会システム科学部には、経営情報科学科、プロジェクトマネジメント学科、金融・経営リスク科学科の3学科があり、分野横断的な学問領域を基礎とし、社会システムやマネジメント手法の分野において世界文化に貢献し得る人材を養成している。基礎的な専門知識・技術はもちろん、キャリアデザインやコミュニケーションスキルも学び、グループ演習などの共同学習にも参加。グループによる共同作業を通じた問題解決を図れるよう、幅広い知識や技術を身に付けられるカリキュラムが組まれている。
プロジェクトマネジメント学科に所属する矢吹太朗准教授の研究室では、学部3年生と4年生が各10名ほど在籍し、プロジェクトマネジメントに関する研究に取り組んでいる。近年は、Web上の共同作業におけるマネジメントが主なテーマだ。
「例えばWikipediaやGitHubのような、ある種の構造を持つアウトプットを目指して複数人が共同で作業する際、参加者どうしの意見が衝突したときどのように解消するのか、といったことを研究しています。Wikipediaでいえば、各記事ページはまだしも、『カテゴリ』などでは意見衝突の解決が難しいのです。そこで、共同作業に適したインタフェースはどのようなものか、といった研究も行ってきました」と矢吹氏は説明する。
演習での要件定義や設計段階でプロ向けのツールを使わせたい
矢吹氏の研究室では、こういったマネジメント上の知見を導くため、Webからデータを収集するクローリングや、そのデータを分析するマイニングなどを頻繁に用いており、主に、PythonやR言語などで作られたアルゴリズムを応用している。3年次に矢吹氏の研究室を選んだ学生たちは、1・2年次で身に付けた基礎を研究に生かすことになる。そこで研究室では、3年次の前期に演習を設け、実践のための足掛かりにしている。演習は、プロジェクトマネジメントを専攻する研究室だけに、チーム単位でのプロジェクトだ。
「3人ほどのチームを組み、役割分担してWebアプリケーションを作るという内容です。チーム演習という意味では、作るものはゲームでも構わないのかもしれませんが、様々なテクノロジーや開発手法を広く浅く使うという観点から、Webアプリ作成を課題としました」(矢吹氏)
演習は年度半分の短い期間ながら、本格的な開発プロジェクトと同様、きちんと段階を踏んで進行する。つまり、企画・構想や要件定義から、設計、コーディング、レビューやテストを経て、Webアプリを完成させていくという流れだ。しかし、このうち要件定義や設計の段階で学生が使うツールについて、矢吹氏は以前から問題意識を抱えていた。
「学生たちは今までOfficeアプリケーション、主にExcelやPowerPointを使い、手作業で設計書類を作っていました。演習程度の内容なら手間がかかるとはいえ手作業でもできないことはありません。しかし個人的にはナンセンスだと思っています。卒業生たちに『Excelで絵を描くような仕事』はしてほしくないからです。学生たちにも、プロが使うツールを使ってもらいたいと考えていました」と矢吹氏は語る。
卒業生の縁からVSSDを知りアカデミック対応で採用
学生が使うシステム設計ツールについて、長らく課題意識を持ち続けていた矢吹氏だったが、一人の研究室OBが訪れたことで、その解決への道筋が開けた。第一コンピュータリソース(以下、DCR)に勤務する増田知之は、卒業から数年経って矢吹氏の研究室を訪れ、システム設計専用ツール「Verasym System Designer(以下、VSSD)」を紹介した。
「VSSDについては、このとき初めて知りました。プロ向けのツールだけに費用面が気になりましたが、DCRではアカデミック向けに一般企業ユーザーとは異なる対応をしてくれたので、導入が可能になりました」(矢吹氏)
こうして矢吹氏の研究室では、2018年度にVSSDを利用したチーム演習を実施した。演習では、VSSDの環境構築や、学生へのVSSDの操作レクチャーなど、DCR社員による手厚いサポートもあって、担当教官である矢吹氏にとって大きな負担はなかった。
「社会システム科学部は、千葉工業大学の中でも人文学要素が強い文理混合のような学部で、学生たちに対するIT面のサポートも、私たち教員の負担になることがあります。その点、今回はサーバ環境をDCRに準備してもらったので容易に使い始めることができました。また、学生への最初のレクチャーなど手厚いサポートもあって助かりました。教える側にとっての大きな手間はありませんでした」(矢吹氏)
プロ向けツールの効果を体感 “本質”をつかむきっかけに
VSSDを用いて演習を行った学生たちは、以下のようにコメントしている。
「演習は限られた期間内にやることが多かったのですが、プロ用のツールとはどういうものか、貴重な経験が得られました」
「プロジェクトでのソフトウェア開発を体験するのは初めてなので詳細な設計などは難しかったですが、VSSDによる画面設計はあまり難しくなく、設計した体裁をそのままモックアップ(HTML)として出力でき、説得力になると感じました」
矢吹氏は今回の演習について、経験の浅い学生たちには少し課題もあったと振り返る。
「ほとんどの学生が、開発するのが初めての状態でプロ用ツールを扱うことになり、中には使うのに少し苦労した学生もいるかもしれません。演習課題の内容も、例えば設計書類が何を記述するものか、そもそも設計とは何なのかなど、少し難しいところがあったかなとも思います。とはいえ、ツールを活用することで、自動チェックなど、できることが増えますし、それを通じて仕事の“本質”がどこにあるのかをつかんでくれればと期待しています。操作方法そのものより少し上のレベル、『仕事では、この抽象度でできないといけない』といったことを、理解し身に付けてほしいのです。また今回は研究室OBが深く関わっており、学生たちにとっては卒業後の進路についても何らかの考えを得られたかと思います」